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札幌地方裁判所 昭和62年(ワ)2076号 判決 1988年11月30日

主文

1  被告三雄ら九名は、原告に対し、別紙第二物件目録記載の建物を収去して、別紙第一物件目録記載の土地を明け渡せ。

2  被告三雄ら九名は、原告に対し、昭和六二年七月二九日から明渡しずみまで一か月金一万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  被告津田昌は、原告に対し、別紙第三物件目録記載の建物を退去して別紙第一物件目録記載の土地を明け渡せ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第1ないし第4項と同旨

2  仮執行宣言(主文第1項につき)

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六二年七月二九日、別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を札幌地方裁判所昭和六〇年(ケ)第一四〇五号不動産競売事件において買い受け、これを所有している。

2  被告三雄ら九名は、本件土地上にある別紙第二物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を共有(持分各九分の一)して、本件土地を占有している。

3  被告津田昌(以下「被告津田)という。)は、別紙第三物件目録記載の建物(以下「本件二階六畳間」という。)に同被告所有の家財道具を置いてこれを占有し、もって本件土地を占有している。

4  本件土地の昭和六二年七月二九日以降の相当賃料額は、一か月金一万二〇〇〇円を下回ることはない。

5  よって、原告は、請求の趣旨記載のとおり、被告三雄ら九名に対し、本件土地の所有権に基づき建物収去土地明渡し及び不法行為による損害賠償金の支払いを、被告津田に対し、本件土地の所有権に基づき建物退去土地明渡しをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

(被告三雄ら九名)

1 請求原因1の事実は知らない。

2 同2の事実のうち、被告稲津三雄(以下「被告三雄」という。)が本件建物を所有し(しかし、持分九分の一の共有ではなく、全部を単独所有している。)、これにより本件土地を占有していることは認め、その余は否認する。

3 同4は争う。

(被告津田)

4 同1の事実は知らない。

5 同3の事実は認める。

三  抗弁

(被告三雄ら九名)

1 法定地上権の成立

本件建物及び本件土地は、本件土地に訴外国民金融公庫への抵当権が設定された当時、以下(一)、(二)のとおり、いずれも実質的には被告三雄の所有するものであったから、右抵当権が実行された本件の場合には、本件建物のため法定地上権が発生する。

(一) 本件建物について

本件建物は、昭和四七年一一月ころ訴外稲津冨太郎(以下「亡冨太郎」という。)が建築資金を全部出して建築し、身体障害者であった被告三雄に贈与し、以後被告三雄が単独所有するものであった。しかし、被告三雄は洋服仕立業を営んでいたが、商売が下手で失敗を繰り返していたので、亡冨太郎は、被告三雄の債権者からの差押を免れ、同被告の居住場所を確保するため、昭和五〇年七月四日付で亡冨太郎名義の所有権保存登記をなしたものである。

(二) 本件土地について

本件土地は、昭和五五年二月一日、亡冨太郎から被告三雄だけに贈与されたものであるが、贈与税の負担ができなかったことから、同月五日、被告三雄ほか稲津レイ、稲津明の二名の家族に贈与されたものとして共有持分三分の一ずつの所有権移転登記が経由されたものである。

2 約定地上権の設定

仮に、本件土地が被告三雄の単独所有でなく、被告三雄ほか二名の共有であったとしても、被告三雄との間で約定の無償の地上権が設定されていた。本件土地の所有者がかわっても右地上権は存続する。

3 権利の濫用

原告は、金融業を営んでおり、土地の権利関係については十分承知しているところ、本件は、原告が被告三雄ら九名が遺産分割の協議中であることを知りながら、家族関係において第三者間において締結するような地上権、賃借権の設定はありえないことを熟知して本件土地を競落し、法律関係を不安定にして利益を得ようとするもので、本件建物収去土地明渡しを求めるのは、権利の濫用である。

(被告津田)

4 被告津田は、被告三雄より本件二階六畳間を賃借し占有している。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1、2の各事実は否認する。

2  同3は、争う。原告は、不動産競売事件の記録により、本件土地には法定地上権の負担がつかないと判断して買い受けたもので、権利の濫用にはあたらない。

3  同4は、本件土地の占有権限であることを争う。

第三  証拠関係(省略)

理由

一  請求原因1の事実(原告は、本件土地を札幌地方裁判所昭和六〇年(ケ)第一四〇五号不動産競売事件において買い受け、その代金を納付して昭和六二年七月二九日所有権移転登記を経由し、これを所有していること)については、被告三雄ら九名との間では成立に争いがなく、被告津田との間ではその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される甲第一、三、四号証によれば、これを認めることができる。

二  請求原因2の事実のうち、被告三雄が本件建物を占有していることは被告三雄ら九名との間に争いがないので、その余の点(本件建物が被告三雄ら九名の共有か、あるいは被告三雄の単独所有であるか)について、以下まず判断する。

被告三雄ら九名との間で成立に争いのない甲第二号証、前掲同第一、四号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、亡冨太郎は、昭和四七年一月三〇日、本件建物を新築し、昭和五〇年六月二一日、表示登記をなし、同年七月四日、所有権保存登記を経由したこと、他方、訴外国民金融公庫は、本件建物の敷地である本件土地に対する抵当権(昭和五八年一二月二三日設定、同月二九日登記、以下「本件抵当権」という。)を実行し、昭和六〇年一二月七日、札幌地方裁判所において競売開始決定を受け、同月九日、差押えの登記が経由され、不動産競売手続(昭和六〇年(ケ)第一四〇五号)が進められていたが、その手続の中で、競売物件の現況調査のため同裁判所の執行官が、昭和六一年九月一一日、本件土地の立入り調査を行い、翌一二日、被告三雄に対し電話で本件建物の所有関係、本件土地の占有関係等について尋ねたところ、被告三雄は、「本件建物の所有名義人である亡冨太郎は父であり、同人は昭和五六年一月一一日に死亡し、母はその前に死亡している。両親の間には三男、六女の子があり、相続人のうち相続放棄をしたものはいない。本件建物の相続について現在係争中である。」旨返答していること、右執行官は、昭和六一年九月一六日、執行裁判所に対し、亡冨太郎の相続人である被告三雄ら九名が本件建物を所有(共有)して本件土地を占有している旨の現況調査報告をしていること、が認められる。

右認定事実によれば、本件建物は、もと亡冨太郎の所有であったところ、昭和五六年一月一一日、同人が死亡して、被告三雄ら九名が相続し、昭和六一年九月一一日当時も遺産分割は終わっておらず、相続人である被告三雄ら九名の共有(持分各九分の一)であったことが認められ、これによれば、本件土地に対し訴外国民金融公庫への本件抵当権が設定された当時(昭和五八年一二月二三日)も、本件建物は被告三雄ら九名の共有(持分各九分の一)であったことが推認できる。

右認定に反する被告三雄及び同稲津富雄(以下「被告富雄」という。)の「本件建物の所有名義は、亡冨太郎であったが、建築の当初のころから右冨太郎から被告三雄が贈与を受け、単独所有していた。」旨の各供述部分は、本件土地に関する前記不動産競売手続の際、執行裁判所又は現況調査にあたった執行官に対し、被告三雄は執行当事者(債務者)であったから本件建物を単独所有している旨を何度も主張する機会があったのに、これをしなかったこと(前掲甲第三、四号証により推認できる。)、及び右甲第四号証中の「本件建物については、相続のことで係争中である。」旨の記載部分につき、被告三雄、同富雄の説明がいずれも曖昧ないし不自然であることに照らし、たやすく信用することはできない。

三  進んで、被告三雄ら九名の抗弁(1ないし3)について判断する。

1  法定地上権の成否について

(一)  まず、本件土地の所有関係について判断するに、前記二に認定した事実と前掲甲第二号証及び第四号証によると、本件土地を所有していた亡冨太郎は、昭和五五年二月一日、被告三雄、訴外稲津レイ、同稲津明(以下「被告三雄ほか二名」という。)に対し、本件土地所有権の持分三分の一ずつを贈与し、同月五日その旨の所有権移転登記を経由したこと、右被告三雄ほか二名は、昭和五八年一二月二三日、訴外国民金融公庫のために本件土地上に本件抵当権を設定したこと、右国民金融公庫は、右被告三雄ほか二名を共有者として右抵当権を実行し、昭和六〇年一二月七日、本件土地について札幌地方裁判所において競売開始決定を受けたこと、が認められる。

右認定事実によれば、本件抵当権設定当時、本件土地は、被告三雄ほか二名が持分各三分の一ずつ共有していたことが推認できる。

右認定に反する被告三雄及び同富雄の「亡冨太郎は、被告三雄一人に贈与したのだが、贈与税の関係で被告三雄ほか二名に贈与したように登記した。」旨の各供述部分は、右不動産競売手続において、本件土地が被告三雄の単独所有である旨の主張の機会は十分にあったのに、被告三雄ほか二名のいずれからも全くその旨の主張がなされていないこと(前掲甲第三、四号証により推認できる。)に照らし、たやすく信用できない。

(二)  本件建物の所有関係は、前記二に認定のとおり、本件抵当権設定当時、被告三雄ら九名の共有であった。

(三)  右(一)(二)によると、本件抵当権設定当時、本件土地は被告三雄ほか二名の共有であり、本件建物は被告ら九名の共有であったことになるところ、このような場合、特段の事情のないかぎり民法三八八条の定める法定地上権の成立要件である「抵当権設定当時、土地及び建物が同一所有者に属していること」に該当しないものと解されるので、特段の事情を認めるに足りる証拠もない本件の場合には、本件建物のため、本件土地につき法定地上権は成立しない。よって、抗弁1は採用できない。

2  約定地上権の設定について

本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。よって、抗弁2も採用できない。

3  権利濫用の抗弁について

前掲甲第一ないし第四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件不動産競売手続の事件記録、ことに物件明細書(甲第三号証)中の「売却により設定されたものとみなされる地上権の概要」欄に「なし」との記載があることなどにより、本件土地には法定地上権の負担がつかないと判断してこれを買い受けたものであることが窺われ、これをもって原告の本件権利行使が濫用であるとは認められず、他に被告三雄ら九名の主張にかかる権利濫用の抗弁を認めるに足りる証拠もない。よって、抗弁3も採用できない。

四  請求原因3の事実(被告津田が本件二階六畳間に同被告所有の家財道具を置いてこれを占有し、もって本件土地を占有していること)は原告と被告津田との間に争いがない。

被告津田の抗弁4(被告三雄より本件二階六畳間を賃借し占有していること)は、本件土地についての占有権限の主張でないからそれ自体、原告の本件土地所有権に基づく建物退去土地明渡し請求の抗弁たりえないし、被告三雄ら九名の抗弁1ないし3を援用することを前提とする主張としても、前記三のとおり右抗弁1ないし3はいずれも採用できないので、いずれにせよ被告津田の抗弁4は採用できない。

五  被告三雄ら九名との間で成立に争いのない甲第五号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4(本件土地の昭和六二年七月二九日以降の一か月当たりの相当賃料額は金一万二〇〇〇円を下ることはないこと)は認められる。

六  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条及び九三条を適用し(なお、仮執行宣言の申立は、不相当と認めてこれを却下する。)、主文のとおり判決する。

(別紙)

第一物件目録

所在   札幌市白石区本通一八丁目北

地番   五六七番六五

地目   宅地

地積   一九四・二六平方メートル

第二物件目録

所在   札幌市白石区本通一八丁目北五六七番地四

家屋番号 五六七番四

種類   居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積  一階 五四・五四平方メートル

二階 二八・三五平方メートル

右建物の北側接続附属未登記建物

符    1

種類   物置

構造   軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積  四二・一八平方メートル

第三物件目録

右第二物件目録記載の建物のうち、二階和室六畳間一室

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